【SNS採用の成功事例 Vol.3】私が働くところみてて

こんにちは!中小企業診断士の西村星彌(合同会社CLEMA)です。

前回、Vol.2の記事(就職したらどう森みたいな職場だった件について。)では、美容クリニックの採用アカウントが「どうぶつの森」という巧みな比喩を用いて、いかに求職者の「言語化できない不安」を払拭しているか、その見事なコンセプト設計についてお話しさせていただきました。

「職場の空気感」という、目に見えない価値を伝えるためのヒントを、感じていただけたのではないでしょうか。

そして本日、Vol.3として皆様にご紹介するのは、また全く異なるアプローチで求職者の心を掴む、不動産会社の採用アカウントでございます。

その名も、「私が働くところみてて」

▶ 私が働くところみてて(TikTokアカウント)

まるで友人に語りかけるような、この親しみやすい名前のアカウントが、今、多くの求職者に「職業体験」という新たな価値を提供し、大きな注目を集めています。

このアカウントの動画は、そのほとんどが「一人称視点(POV)」で撮影されています。視聴者は、もはや単なる傍観者ではございません。カメラは「私(=社員)」の目となり、出社から退勤まで、働く日常そのものをリアルに“体験”することになるのです。

本日は、このアカウントが持つ抗いがたい「没入感」が、いかにして生まれているのか。そして、その手法がなぜ、リソースの限られた中小企業にとって大きな希望となり得るのかを、紐解いてまいりたいと思います。

「説明」を捨て、「体験」を届けるPOVの魔法

このアカウントの最大の成功要因は、間違いなく「一人称視点(POV)」という手法にございます。

求職者が抱く最も根源的な問い、それは「この会社で働いたら、どんな一日を送ることになるのだろう?」というものでしょう。
多くの企業が、この問いにパンフレットの言葉やWebサイトの写真で「説明」しようと試みます。しかし、このアカウントは違いました。

彼らは、説明することをやめ、「体験」させることを選んだのです。

視聴者は、主人公の目を通して先輩の運転する車の助手席に座り、オフィスに出社し、PCに入力作業をし、時には外回りもします。そこには、求人票のスペック情報だけでは決して伝わらない、感情の機微や職場のリアルな温度感が、これでもかと詰まっているのです。

「この会社で働いたら、こんな目線なのか」

言葉による説明を介さず、映像体験として直接脳に届けるこの手法は、視聴者の未来を鮮明に想像させ、仕事への好奇心を強烈に刺激します。これこそが、POVが持つ魔法の力でございます。

「リアル」と「エンタメ」の絶妙な掛け算

ただ一人称視点で日常を映すだけでは、退屈なVlogになってしまう可能性もございます。

このアカウントが秀でているのは、そのリアルな日常に、TikTokならではの「エンターテイメント性」を巧みに掛け合わせている点でございます。

流行の楽曲をBGMに採用するのはもちろんのこと、人気アニメ『HUNTER×HUNTER』のパロディや、冒頭で「出社の舞」と称しTikTokで流行っているダンスを行うなど、若い世代が思わず反応してしまうようなネタを編集に盛り込むことで、単なる職場紹介動画を、面白い「エンタメコンテンツ」へと昇華させているのです。

この編集センスは、視聴者に「この会社、ノリがいいな」「面白い人たちが働いていそう」というポジティブな印象を与えます。
プロの仕事風景という「リアル」と、誰もが楽しめる「エンタメ」。この絶妙なバランス感覚が、採用ターゲット以外の層にも動画を拡散させ、結果として企業の認知度向上にも大きく貢献しているのです。

なぜ、この手法は中小企業の「希望」なのか

さて、ここまでお読みになり、「こんな面白い動画、専門の部署や高価な機材がないと作れないのでは?」と感じられたご担当者様もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ご安心ください。
この「私が働くところみてて」の手法が本当に素晴らしいのは、莫大なリソースを必要としない点にございます。これこそが、多くの中小企業にとって大きな希望となり得る理由です。

  • 高価な機材は不要です。
    必要なのは、皆様がお持ちのスマートフォンや、数万円で購入できるGoProのようなアクションカメラだけ。POV視点を実現するためのチェストマウント(体にカメラを固定する器具)も、数千円で手に入ります。
  • プロの役者は不要です。
    出演者は、そこで働く社員の皆様です。むしろ、作られた笑顔ではない、素の表情や自然な会話こそが、何よりの説得力を持ちます。
  • 莫大な広告費は不要です。
    この戦略で最もコストをかけるべきは、高価な広告枠ではございません。「どんな企画が面白いか」「どう見せたら楽しんでもらえるか」という「企画(アイデア)」「編集(見せ方)」、すなわち皆様の知恵と工夫なのです。

つまり、この手法は「資本力」ではなく「アイデア」で勝負できる、極めて再現性の高い戦略と言えましょう。
リソースが限られているからこそ、知恵を絞り、チーム一丸となってコンテンツを作り上げる。そのプロセス自体が、企業のカルチャーを体現する魅力的な物語となり得るのです。

ただし…!

一般的な中小企業が自社内のリソースでやるのは難易度が高いと思っています。というのも、こちらのアカウントの人気を支えているのは「天才的な編集スキル」です。こちらのアカウント構成のいわゆる「パクリ」アカウントは大量に発生しています。色々と見てもらえるとわかるかもしれませんが、パクリはパクリなりのクオリティとなっており、こちらのアカウントの編集センスには遠く及んでいません。

まとめ:「働く視点」を、求職者に貸し出そう

今回ご紹介した「私が働くところみてて」は、SNS採用における一つの真理を、極めて高いレベルで体現しています。
それは、企業の魅力を「説明」しようとするのではなく、求職者に「体験」してもらうことの圧倒的なパワーでございます。

確かに、このアカウントの成功は、流行の音楽やアニメネタを巧みに取り入れた、天才的な編集スキルに支えられている面も大きいでしょう。しかし、中小企業が本当に参考にすべき点は、その表面的なテクニックだけではございません。

最も重要な本質は、「働く人の“視点”そのものを、未来の仲間となる求職者に貸し出す」という、その卓越したアイデアにあるのです。

この「一人称視点」という手法は、業界を問いません。製造業の工場、飲食店のキッチン、美容室、薬局、工事現場、医療業界など、あらゆる「働く場所」で応用が可能です。

完璧な編集をいきなり目指す必要はございません。まずは、皆様の会社の「働く視点」を、撮影してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
たとえ少し不器用でも、そこから見えるリアルな日常は、どんな巧みなキャッチコピーよりも雄弁に、皆様の職場の魅力を物語ってくれるはずでございます。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
次回の更新も、どうぞご期待くださいませ。

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