【SNS採用の成功事例 Vol.7】先輩の日常

こんにちは!中小企業診断士の西村星彌(合同会社CLEMA)です。

前回までの記事では、「就職したらどう森みたいな職場だった件について。」「私が働くところみてて」といった、SNS採用における非常に面白い成功事例を取り上げてまいりました。

どちらにも共通していたのは、単に「求人情報を発信している」のではなく、求職者が思わず見たくなる「世界観」「体験」をつくっていたことです。

そして今回ご紹介するのは、また違った角度からSNS採用の可能性を感じさせてくれるアカウントでございます。

その名も、「先輩の日常」

▶ 先輩の日常(TikTokアカウント)
https://www.tiktok.com/@senpai.sus

株式会社エスユーエスの公式TikTokチャンネルで、元AKB48の篠崎彩奈さんが「先輩」として登場し、東京オフィスを舞台に、後輩くんとの温かい日常を描くストーリー型コンテンツとして展開されています。2024年12月末のチャンネル開設から約5か月でフォロワー数は3万人を突破したとのことです。

このアカウントが面白いのは、採用アカウントでありながら、いわゆる「採用アカウントっぽさ」がほとんどない点です。

「会社説明をします」
「社員インタビューです」
「エンジニアを募集しています」

という見せ方ではなく、あくまで「先輩と後輩の日常」を見せる。

しかし、気づけば視聴者は、

「こんな先輩がいる会社、いいな」
「この職場、雰囲気が良さそう」
「少し気になる会社かも」

と感じてしまう。

本日は、この「先輩の日常」が持つ採用ブランディング上の強さを、3つの視点から紐解いてまいりたいと思います。

「採用」を語らず、「関係性」を見せる強さ

このアカウントの最大の成功要因は、採用情報そのものではなく、「先輩と後輩の関係性」をコンテンツの中心に置いている点にございます。

多くの企業がSNS採用を始めると、どうしても次のような投稿になりがちです。

・会社紹介
・社員紹介
・福利厚生紹介
・1日の流れ
・募集職種の説明
・採用イベントの告知

もちろん、これらは必要な情報です。

しかし、TikTokやInstagramリールのようなショート動画の世界では、視聴者は最初から「企業研究をしよう」と思って動画を見ているわけではございません。

何となくスマホを開き、何となく流れてきた動画を見る。

その中で、少しでも「広告っぽい」「採用っぽい」「説明っぽい」と感じた瞬間に、すぐにスワイプされてしまいます。

そこで「先輩の日常」が行っているのは、会社の説明ではなく、関係性の提示です。

少し優しい先輩。
少し気になる先輩。
その先輩に話しかけられる後輩くん。
オフィスで交わされる何気ない会話。
仕事の合間に生まれる、少し温かい空気。

視聴者は、企業の採用情報を見ているというより、一つのショートドラマを見ている感覚になります。

これが非常に強いのです。

採用活動において、求職者が本当に知りたいのは、給与や休日だけではございません。

「どんな人と働くのか」
「職場の雰囲気はどうか」
「自分はここに馴染めそうか」
「先輩は優しそうか」
「入社後に孤独にならなさそうか」

こうした、求人票では伝えにくい感情面の情報こそ、若い世代にとっては非常に重要です。

「先輩の日常」は、その不安に対して、言葉で説明するのではなく、映像の中の関係性で答えています。

これは、SNS採用において非常に本質的なアプローチだと感じます。

「企業アカウント」ではなく「ショートドラマメディア」になっている

次に注目すべきは、このアカウントが「企業アカウント」というより、「ショートドラマメディア」として成立している点でございます。

通常、企業の採用アカウントは、どうしても企業側の都合が前に出ます。

採用したい。
応募してほしい。
説明会に来てほしい。
会社の魅力を知ってほしい。

もちろん、企業としては当然の目的です。

しかし、視聴者からすると、その目的が前面に出れば出るほど、コンテンツとしては少し重たく感じられてしまいます。

一方、「先輩の日常」は違います。

アカウント名からして、企業名ではなく「先輩の日常」

この時点で、視聴者は「会社の広報アカウントを見る」というより、「先輩というキャラクターの日常をのぞく」という感覚になります。

ここが非常に巧みです。

企業名を前面に出さず、まずキャラクターを前面に出す。
仕事内容を前面に出さず、まず人間関係を前面に出す。
採用情報を前面に出さず、まず物語を前面に出す。

この順番が、SNSではとても重要なのです。

いきなり「弊社はエンジニアを募集しています」と言われると、興味のない人はそこで離脱します。

しかし、「少し気になる先輩の日常」が流れてきたら、採用に興味がない人でも見てしまう可能性があります。

その結果、採用ターゲット以外にも広がり、企業名を知らなかった人にも認知が届いていく。

これこそ、SNS採用の面白いところです。

求人媒体では、基本的に「今、仕事を探している人」にしか届きません。

しかし、SNSでは「今すぐ転職したいわけではない人」「まだ就活を本格化していない学生」「将来の選択肢として何となく見ている人」にも届きます。

つまり、短期的な応募獲得だけではなく、将来の採用候補者に対する認知形成ができるのです。

「先輩の日常」は、まさにこのSNSならではの強みを活かしたアカウントだと言えます。

有名人起用を「広告塔」ではなく「物語の主人公」にしている

もう一つ大きなポイントは、篠崎彩奈さんの起用の仕方です。

元AKB48という知名度や、画面上での華やかさ、表情の作り方、カメラ慣れ。

ショート動画において、これは間違いなく大きな武器になります。

ただし、ここで重要なのは、単に「有名人を使ったから伸びた」という話ではないことです。

有名人を起用しても、企業の宣伝色が強すぎれば、ただの広告になってしまいます。

「この会社に入社しませんか?」
「エンジニアとして一緒に働きましょう」
「説明会はこちらです」

といったメッセージを有名人に言わせるだけでは、視聴者はすぐに広告だと判断します。

しかし、「先輩の日常」では、篠崎さんを単なる広告塔ではなく、「先輩」という物語上のキャラクターとして配置しています。

公式リリースでも、篠崎さんが若手エンジニアや成長を目指す方々にとって「少し先を歩く先輩」として背中を押してくれるような存在になることが期待されていると説明されています。

この設計が非常に上手いのです。

視聴者は、企業広告を見ているのではなく、「先輩」というキャラクターを見ています。

でも、その舞台は会社のオフィスです。

つまり、キャラクターへの好意が、少しずつ会社への好意に転換されていく構造になっています。

これは採用ブランディングとして非常に強いです。

なぜなら、採用においては「この会社を知っている」だけでは不十分だからです。

「この会社、何となく好き」
「この会社、雰囲気が良さそう」
「この会社、ちょっと気になる」

という感情が生まれて、初めて検索やエントリーにつながります。

そして、その感情を生むうえで、「人」「キャラクター」の存在は非常に大きな役割を果たします。

中小企業の場合、有名人を起用することは現実的ではないかもしれません。

しかし、ここで学ぶべき本質は「有名人を使うこと」ではございません。

自社の中にいる誰を、どのようなキャラクターとして見せるか。

この視点です。

優しい先輩。
面倒見の良い上司。
少し天然な若手社員。
仕事にまっすぐな職人。
現場を明るくするムードメーカー。
いつも冷静に支えてくれる事務スタッフ。

中小企業にも、必ず魅力的な人はいます。

ただ、その魅力が採用ページや求人票では伝わっていないだけなのです。

SNS採用では、こうした人の魅力を、単なる社員紹介ではなく、視聴者が好きになれるキャラクターとして届けることが重要になります。

まとめ:「採用アカウント」を作るのではなく、「好きになる理由」を作ろう

今回ご紹介した「先輩の日常」は、SNS採用における非常に重要な示唆を与えてくれます。

それは、採用アカウントだからといって、最初から採用を語りすぎる必要はないということです。

むしろ、採用色を出しすぎないからこそ見てもらえる。

会社説明をしすぎないからこそ、世界観に入り込んでもらえる。

求人情報を押し出しすぎないからこそ、「この会社、何かいいな」という感情が生まれる。

SNS採用において本当に大切なのは、情報を並べることではございません。

求職者の心の中に、「好きになる理由」を作ることです。

「先輩の日常」は、その理由を「先輩と後輩の温かい関係性」という形で見事に表現しています。

皆様の会社にも、きっと求職者が好きになってくれる理由があるはずです。

それは、社員同士の距離感かもしれません。
現場の真剣な空気かもしれません。
お客様に向き合う姿勢かもしれません。
若手を育てる文化かもしれません。
社長の人柄かもしれません。

大切なのは、それを「当社の魅力は〇〇です」と説明するのではなく、動画を見た人が自然に感じ取れる形に変換することです。

SNS採用とは、求人票の情報を動画化することではありません。

自社で働く人、空気感、価値観、日常を通じて、未来の仲間に「ここで働く自分」を想像してもらう取り組みなのです。

「先輩の日常」は、その一つの完成形と言えるのではないでしょうか。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
次回の更新も、どうぞご期待くださいませ。

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